茶席の禅語

                           

梨花一枝春(りか いっしの はる)
白楽天の『長恨歌』に「玉容寂寞涙闌干、梨花一枝春帶雨。」(玉容、寂寞として涙闌干、梨花一枝、春、雨を帯ぶ。)とある。玉容(ぎょくよう);美しい容貌。寂寞(じゃくまく); ひっそりとして寂しいさま。闌干(らんかん);涙が盛んに流れるさま。美しい顔(楊貴妃)がひっそりと寂しげに涙を流す。梨の花が一枝、春の雨に濡れるかのごとく。『楚石梵g禪師語録』に「師云。書頭教娘勤作息。書尾教娘莫〓(石盍)睡。還識娘面觜麼。玉容寂寞涙闌干。梨花一枝春帶雨。喝一喝。」(師云く、書頭、娘を作息に勤めしめ、書尾、娘をカイ睡することなからしめ、還って娘の面觜を識るか。玉容、寂寞として涙闌干、梨花一枝、春、雨を帯ぶ。)とみえる。

流泉作琴(りゅうせんを きんと なす)
碧巌録』三七則「盤山三界無法」の頌に「三界無法。何處求心。白雲為蓋。流泉作琴。一曲兩曲無人會。雨過夜塘秋水深。」(三界無法。何れの処にか心を求めん。白雲を蓋となし。流泉を琴となす。一曲両曲人の会するなし。雨過ぎて夜塘に秋水深し。)とある。

柳緑花紅(りゅうりょくかこう)
柳は緑、花は紅(やなぎはみどり はなはくれない)。『全唐詩』の魏承班の『生査子』に「煙雨晩晴天、零落花無語。難話此時心、梁燕雙來去。琴韻對熏風、有恨和情撫。腸斷斷弦頻、涙滴黄金縷。寂寞畫堂空、深夜垂羅幕。燈暗錦屏欹、月冷珠簾薄。愁恨夢難成、何處貪歡樂。看看又春來、還是長蕭索。離別又經年、獨對芳菲景。嫁得薄情夫、長抱相思病。花紅柳濠ヤ晴空、蝶舞雙雙影。羞看繍羅衣、為有金鸞並。」、蘇東坡の禅に関する詩文と逸話、および仏印禅師(?〜1098)との問答を収録した徐長孺(益孫)編『東坡禪喜集』に「柳緑花紅真面目」、『禪林類聚』(1307)に「海印信云。見不及處。江山滿目。不睹纖毫。花紅柳香B白雲出沒本無心。江海滔滔豈盈縮。」とみえる。一休禅師の道歌に「見るほどにみなそのままの姿かな 柳は緑 花は紅」、沢庵禅師に「色即是空 空即是色 柳は緑 花は紅 水の面に 夜な夜な月は 通へども 心もとどめず 影も残さず」があるという。柳は緑、花は紅、ただそれだけのことである。

緑水繞青山(りょくすい せいざんを めぐる)
普燈録』に「僧問馬祖。如何是佛。曰。即心是佛。云。如何是道。曰。無心是道。云。佛與道相去多少。曰。佛如展手。道似握拳。師曰。古人方便即不可。山僧這裏也有些子。若無人買。山僧自賣自買去也。如何是佛。岩前多瑞草。如何是道。澗下絶靈苗。佛與道相去多少。數片白雲籠古寺。一條告繞青山。」(僧、馬祖に問う、如何なるか是れ仏。曰く、即心是れ仏。云う、如何なるか是れ道。曰く、無心是れ道。云う、仏と道とは相い去ること多少ぞ。曰く。仏は手を展べる如く、道は拳を握るに似る。師曰く、古人の方便即ち可とせず。山僧、這裏也、些子あり。もし買う人なければ、山僧、自ら売り自ら買うなり。如何なるか是れ仏。岩前、瑞草多し。如何なるか是れ道。澗下、霊苗絶える。仏と道とは相い去ること多少ぞ。数片の白雲古寺を籠め。一条の緑水青山をめぐる。)とある。即心是仏(そくしんぜぶつ);人間が本来もっている心そのままが仏であること。

臨濟録(りんざいろく)
鎮州臨濟慧照禅師語録(ちんじゅうりんざいえしょうぜんじごろく)。全1巻。唐代の禅僧で臨済宗の開祖、臨済義玄(?〜866)の法語を弟子の三聖慧然が編集したものとされるが、現在一般に流布されているものは北宋の宣和2年(1120)に円覚宗演が重開したもの。臨済宗で最も重要な語録とされる。

聯燈會要(れんとうえよう)
宗門聯燈會要。全30巻。南宋の晦翁悟明の編。淳熙十年(1183)に成る。「五燈録」の一。過去七仏より西天二十八祖、東土六祖を経て、南岳下十七世天童咸傑、青原下十五世浄慈慧暉に至る六百余人の祖師の機縁語句と問答を録し、伝灯相承の次第によって分類したるもの。

臘雪連天白(ろうせつ てんに つらなって しろし)
虚堂録』に「感首座問法昌。昔日北禪烹露地白牛。今夜分歳有何施設。昌云。臘雪連天白。春風逼戸寒。感云。大衆喫箇甚麼。昌云。莫嫌冷淡無滋味。一飽能消萬劫飢。」(感首座、法昌に問う、昔日北禅露地の白牛を烹る。今夜分歳、何の施設やある。昌云く、臘雪天に連なって白く、春風戸に迫って寒し。感云く、大衆箇の甚麼をか喫す。昌云く、嫌うことなかれ冷淡にして滋味なきことを、一飽能く万劫の飢えを消せしむ。)とある。北禪(ほくぜん);慧能の南宗禅に対し神秀(じんしゅう)の漸悟主義の北宗禅。露地白牛(ろじのびゃくご);『法華經』譬喩品の「爭出火宅。是時長者見諸子等安隱得出,皆於四衢道中露地而坐・・・・駕以白牛」から。『祖堂集』に「謂露地者佛地。亦名第一義空。白牛者諮法身之妙慧也。」(謂く、露地は仏地なり。亦た第一義空と名づく。白牛は法身を諮るの妙慧なり。)とある。臘雪(ろうせつ);陰暦一二月に降る雪。一飽(いっぽう);一度食事をして満腹になること。萬劫(まんごう);極めて長い年月。『禅林句集』に「臘雪連天白、春風逼戸寒。」とあり『禪林類聚』巻十四歳時門を出典とするが未見。

羅湖野録(ろごやろく)
宋代の禅門の逸話集。全二巻。大慧の嗣、暁瑩仲温の編。紹興乙亥(1155)の自序、紹興庚辰(1160)の無著妙ハ(1095〜1170)の跋がある。羅湖上に菴居して、当代禅門の逸話を集録したもの。

 
  
  
  
  
 

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