茶の湯の裂地

                           

嵯峨桐金襴(さがきりきんらん)

名物裂の一。縹の五枚繻子地に、金糸で入子菱地紋と五七の桐紋を互の目に織り出した金襴。京都嵯峨の清涼寺釈迦堂の戸帳裂に用いられたという。類裂に、地紋のない「大内桐金襴」がある。『古今名物類聚』には「嵯峨切」として所載。


嵯峨金襴(さがきんらん)
名物裂の一。朱や蘇芳色の経三枚綾地に、金糸で斜めに流れる霊芝雲と宝尽し紋を織り出した金襴。嵯峨の天竜寺塔頭慈済院の空谷明応が所持したと伝えられる袈裟に用いられたところからの名という。冨田金襴本歌とされる。『古今名物類聚』所載。

相良間道(さがらかんとう)
名物裂の一。相良間道と称する裂は二種類に大別され、一つは黄と紺の太縞に梅鉢紋を、赤と白の太縞には丸と菱紋または唐草紋を浮かせ、それぞれの太縞の間を白・青・黄などの組縞が十二、三本を一組として区切った間道。もう一つは縹・浅葱・白・黄・赤などの大小縦縞の間に唐草文様のある間道で、唐草文様は経の浮糸により織り出された経浮織。『古今名物類聚』に「はしり井 袋二 一 表さから廣東 裏海黄 緒つかり紫」とあり中興名物「走井」の仕服として用いられている。『古今名物類聚』にみえるのは、縹・萌黄・黄・白の細縞の間に赤地に黄の唐草文。名称の由来は不詳だが、平将門追討に功のあった藤原為憲の後裔が遠江国榛原郡相良庄に住み相良を称し、源頼朝に肥後球磨郡人吉庄の地頭職に補任されて以来の名族で肥後人吉城主2万2千石の相良氏に由来するともいう。

笹蔓緞子(ささづるどんす)
名物裂の一。濃紺地に、緯糸に金茶色の糸を用いて笹の細蔓に松毬と六弁の小花をつけた唐草文を織り出した緞子。花葉松毬唐草文様緞子。松毬のかわりに霊芝雲、また鳥入り、卍入り、石畳地文のものなども見られ色違いもある。『古今名物類聚』には「笹つる」「笹つる時代」「鳥入さヽつる」を載せる。

佐竹金襴(さたけきんらん)
名物裂の一。緋地に、二重菱の内に牡丹花と四隅に卍字を織り出した金襴。佐竹家伝来という。

薩摩間道(さつまかんとう)
名物裂の一。赤・浅黄・萌黄・白・茶・黒などの大小縞に幾何学紋や唐草紋を浮織にした間道。縞の組合わせ、色糸の種類など類裂が多く、『古今名物類聚』にも二図所載されるが、文様はかなり異なる。名称の由来は不明。中国南部、東南アジア製で、江戸初期に渡来したものとされる。

山椒緞子(さんしょうどんす)
名物裂の一。紺地に、黄茶の緯糸で折枝紋を並べ、間に宝尽し紋を織り出した緞子。折枝は五弁と六弁の花と側面のものを交互に配し、宝尽し紋は、丁子・分銅・卍字・七宝・巻物・珊瑚などの雑宝が散らされている。同系に茶地のもの、花紋が果実風なもの、蝶紋のあるものなど種々ある。

しじら間道(しじらかんとう)
名物裂の一。白地に、紺や赤地の堅縞あるいは格子縞を織り出した間道。平織に真田を混ぜて皺を出している。しじらとは、織りの際に経糸に太さや張力の違うものを混ぜたり組織の異なる織を混ぜることにより皺を出したもの。

品川緞子(しながわどんす)
名物裂の一。茶地に、萌黄で水草に魚を織り出した緞子

柴田緞子(しばたどんす)
名物裂の一。縹地に、茶で菱垣に巴を織り出した緞子

芝山緞子(しばやまどんす)
名物裂の一。浅葱色の経に白ないし黄の緯で三重の横襷に雷紋を配した地紋を織り出し、ところどころに木瓜形や菱形の窓を開け龍紋を織り出した緞子。芝山茶入の仕服に用いられたとも、利休七哲のひとり芝山監物の所持に因む名ともいう。

下妻間道(しもずまかんとう)
名物裂の一。白・縹・金茶・萌黄・紅などの絵緯糸を用い、木目のような渦紋様を綴で織り出したもの。一般に間道と呼ばれる平織の縞裂とは異なる織技のもの。下妻緞子と同じく本願寺の坊官、下間少進の所持に因む名という。

下妻緞子(しもずまどんす)
名物裂の一。萌黄の経糸に金茶の緯糸でやや緩んだ網目に長尾鳥の丸紋を織り出した緞子。本願寺の坊官、下間少進の所持に因む名という。少進裂ともいう。『古今名物類聚』に「地合あつき方。紋白極におなし」とある。

下手金襴(しもてきんらん)
名物裂の一。『古今名物類聚』所載。

紗金(しゃきん)
名物裂の一。紗地に平金糸を織り込んで文様を表した裂。平金糸を縫い付けて文様を表したものは金紗と称して区別している。『古今名物類聚』所載。

朱印裂(しゅいんぎれ)
名物裂の一。御朱印裂。桃山時代から江戸時代の御朱印船に明国から与えられた国璽の押してある旗標の裂。種々あるが、白地雲龍紋に金糸で福寿の文字を織り出したものが代表的。一般に雲龍紋の綾裂に御朱印裂と称するものが多い。『古今名物類聚』所載。

珠光緞子(じゅこうどんす)
名物裂の一。縹地に金茶色の緯糸で,花唐草と龍文様が織りだした緞子縹地龍唐草文緞子。村田珠光の所持からこの名がある。珠光が足利義政から拝領した胴服の裂と伝えられ、明代初期の製とされる。『松屋会記』の慶長13年12月12日朝大阪天満の織田有楽の会に「前ニ草部ヤ肩衝、珠光緞子袋ニ入」とあるのが初見。大名物「松屋肩衝」の仕服に用いられている小牡丹唐草に三ツ爪の龍文と火焔文が織り出された龍三爪緞子が本歌。『古今名物類聚』所載。

春藤金襴(しゅんとうきんらん)
名物裂の一。紫地に平金糸で角龍紋を織り出した金襴角竜金襴の一。『古今名物類聚』所載。

紹鴎間道(じょうおう かんとう)
名物裂の一。紺地に、細かい白糸で千鳥格子風に織り出した間道武野紹鴎の所持からこの名がある。大名物「紹鴎茄子茶入」の仕服として添えられる。利休間道に比べ経緯共に細い絹糸を使用し、撚りも強い。

紹鴎緞子(じょうおうどんす)
名物裂の一。紺地に、細蔓の花唐草の間に龍を織り出した緞子武野紹鴎の所持からこの名がある。珠光緞子と同類の裂だが、珠光緞子に比べ文様の線が太く煩雑で精緻さを欠く。大名物「珠光文琳」の仕服として添えられる。『古今名物類聚』所載。

上極金襴(じょうごくきんらん)
名物裂の一。『古今名物類聚』所載。

少進緞子(しょうしんどんす)
名物裂の一。萌黄地に、白で網目地紋に鳥を織り出した緞子下妻緞子ともいう。本願寺の坊官、下間少進の所持に因む名という。

上代風通(じょうだいふうつう)
名物裂の一。『古今名物類聚』所載。

紹智金襴(じょうちきんらん)
名物裂の一。白または白茶の経三枚綾地に、麦藁筋というよろけ縞を織り出し、金糸で花兎紋や花麒麟紋を織り出した金襴。藪内紹智の所持に因む名という。大名物「円乗坊肩衝」、中興名物「振鼓」の仕服に用いられる。『古今名物類聚』所載。

紹巴(しょうは)
名物裂の一。蜀紦。紹紦、諸紦、蕉紦などとも書き、「じょうは」「しょば」ともいう。種々の色の経緯糸を使って綾織風に文様を織り出した紋織物の一種で、紋様に特定のものはないが、経緯とも強い撚りがかけられ細かい山形や横に杉綾状の地紋があり、金銀糸を交え花紋や幾何学紋などが織り出されている。中国明代万暦年間(1573−1619)の製が有名で、黒と薄桃色の糸で唐子人形を織り、織留めを牡丹花紋とした薄手のものや、茶地に牡丹唐草・馬上人物・人形手などの文様を織り出し、織留めの濃緑色に牡丹唐草、薄浅黄地に「富貴長命」の文字を織り出した厚手のものなどがある。仕覆・古帛紗・表具裂などとして使われる。中興名物「龍浪茶入」「甫十銘楽茶入」「神楽岡茶入」「呉竹茶入」などの挽家袋に使われている。利休の弟子・里村紹巴の所持に因む名という。

正法寺緞子(しょうぼうじどんす)
名物裂の一。薄縹の経糸に白ないし黄に緯糸で、互の目に配した桔梗・梅鉢・菊花紋と、左右に短く伸びた二重蔓唐草を織り出した緞子。正法寺に伝来したことに因む名という。大名物「白玉文琳」の仕服に用いられる。『古今名物類聚』所載。類裂に「定家緞子」がある。

蜀金金襴(しょくきんきんらん)
名物裂の一。緯太の平織地に、濃淡三色の堅縞を織り出し、その縞ごとに七宝紋、縦菱紋、小六弁花紋などを織り出した金襴大坂蜀錦ともいう。大名物「利休物相」の仕服に用いられる。

蜀江錦(しょっこうにしき)
名物裂の一。中国の蜀(四川省)の付近を流れる揚子江上流の川で、糸をさらして織ったことから名付けられた、金糸を用いず、色糸だけで織った錦のこと。また、多くは赤色を使うので「蜀紅」とも書くことがある。法隆寺伝来の飛鳥時代の紅地格子連珠紋の経錦がある。一般に名物裂で蜀工と称するものは、元・明代に成都の錦院(明代では織染局)で作られた錦を指す。文様は住持に交差する線の間に四角・六角・丸形を配し花紋・七宝紋・龍紋などで繋いだいわゆる蜀江紋様が多い。

杉葉緞子(すぎのはどんす)
名物裂の一。濃縹地に、白で杉の葉を織り出した緞子

角倉金襴(すみのくらきんらん)
名物裂の一。濃い萌黄の三枚綾地に金糸で作土紋の中に花朶紋と土坡の上に振り向いた兎を織り出した金襴。角倉了以(すみのくらりょうい)の所持に因む名という。類裂は多く、一般に小柄なものを花兎金襴、大柄のものを角倉金襴と称している。角倉了以(1554〜1614)は、安土桃山・江戸初期 の豪商。角倉船で安南・ルソンと海外貿易。河川開発では富士川、天竜川の疏通事業を手がけ、 京都では大堰川、鴨川を開き、高瀬川を開削。

住吉緞子(すみよしどんす)
名物裂の一。赤茶色の地に三角形の鱗文様を織り出した緞子。名物「住吉文琳茶入」の仕服に用いられたことによりこの名がある。名物「住吉文琳茶入」、 中興名物「橋立茶入」の仕服に用いられる。『古今名物類聚』所載。類裂は「鎌倉緞子」など多い。

西王母金襴(せいおうぼきんらん)
名物裂の一。薄紅地に、桃の折枝、撚金糸で桃、萌黄・黒の絵緯糸で葉と枝を織り出した金襴。西王母は、中国の仙女。長寿を祈願する漢の武帝に天上から下って仙桃七顆を与えたという故事に因んでの名という。

宗及緞子(そうきゅうどんす)
名物裂の一。縹地に、白で唐草と蜻蛉のような小虫・龍丸・宝紋を散らした緞子。津田宋及の所持に因む名という。

宗薫緞子(そうくんどんす)
名物裂の一。縹地に、二重の七宝繋ぎ文に宝尽文と梅花文を入れた緞子。今井宗薫所持に因む裂。今井宗薫は、安土桃山・江戸前期の茶人。天文21年(1552)〜寛永4年(1627)。和泉堺生。今井宗久の嫡子。名は兼久・久胤、通称は帯刀左衛門、別号に単丁斎。父宗久に茶湯を学び豊臣秀吉の茶頭・お伽衆となる。のちに徳川家康・秀忠・家光と三代の将軍に仕え、茶頭をつとめた。「宗薫肩衝」など多数の名物道具を所持。『古今名物類聚』所載。

宗悟緞子(そうごどんす)
名物裂の一。縹色の経五枚繻子地に、浅黄または黄で唐草紋と龍紋を織り出したもの。宗五とも書く。 『古今名物類聚』には「宗悟」とある。宗悟は 十四屋宗梧(じゅうしやそうご) 、宗五は三宅宗五であるといわれるが、所伝は詳らかでない。十四屋宗梧は室町末の茶匠で武野紹鴎の師とされる。類裂に「紹鴎緞子」ほかがある。

宗珠緞子(そうじゅどんす)
名物裂の一。縹地に卍字繋ぎの地紋を置き、梅花の折枝を木瓜形の枠の中に織り出した緞子。宗周緞子(そうしゅうどんす)ともいう。宗珠は村田珠光の養嗣子。宗周は長門国の歌人、鍵屋宗周であるといわれるが、所伝は詳らかでない。『古今名物類聚』所載。

                           


 
 
 
 

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